HDD

矢野元公明党委員長の訴状全文

訴状


平成20年5月12日


東京地方裁判所民事部御中



原告訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
同 久保田康史
同 川端和治
同 弘中絵里
同 河津博史
同 大木勇
同 品川潤




当事者別紙当事者目録記載のとおり


損害賠償請求事件
訴訟物の価額 金5500万円
貼用印紙額  金18万5000円

請求の趣旨

1,被告らは、各自、原告に対して、金5500万円並びにこれに対する本訴状送達の翌日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告らの負担とする。

との裁判並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因

第1 本件訴訟の概要

本件は、被告宗教法人創価学会(以下被告学会という)の古くからの会員であり、被告学会と密接な関係にある政党・公明党の要職を長く務めた原告に対して、平成17年頃から、被告らが、機関誌などでの誹謗中傷,言論活動中止の強要、原告の手帳などの個人的資料の提出の強要、莫大な寄付の強要等の一連の人権侵害行為を行った行為についての損害賠償を求めるものである。

なお、そのうち手帳などの個人的資料の提出の強要については、既に別訴を提起しているので、その余の行為について、一連の人権侵害事件として、提訴したものである。

第2 当事者

1,原告

原告は、昭和31年3月に京都大学経済学部を卒業し、卒業後(株)大林組に入社した。その間、昭和28年に被告学会に入会して青年部幹部として活動し、以後,被告学会の中で関西男子部長,本部副青年部長,本部理事などの学会本部役員を歴任した。

他方で,原告は,昭和38年4月には公明党公認で大阪府議会議員選挙に立候補して当選し、大阪府議会議員となるとともに(株)大林組を退職した。

その後、昭和42年2月には、公明党公認で衆議院議員選挙に立候補して当選し、その後平成5年7月まで、9期衆議院議員を務めた。

その間、昭和42年2月から昭和61年12月まで公明党書記長の職に就き、昭和61年12月から平成元年5月まで、同党中央執行委員長の職に就いた。この公明党書記長,委員長の職にある間,原告は,被告学会の要請に応じて,数多くの諸問題の解決のためにも誠心誠意尽力してきた。

 原告は、平成5年頃から、それまでの政治活動の知識・経験を生かして政治評論家として活動するようになり、平成17年4月に、後述するような経緯で言論活動を中止するまでの間、新聞・雑誌への掲載記事の執筆、テレビ番組などでの発言などを行っていた。

 なお,原告は,平成20年5月1目到達の書面にて,被告学会に退会届を提出して被告学会を退会した。

2,被告ら

 被告学会は、昭和5年11月18日に設立された宗教法人である。

被告杉山保(以下被告杉山という)は平成17年当時被告学会の青年部長の立場にあり、

被告谷川佳樹(以下被告谷川という)は平成17年当時被告学会の総東京長の立場にあり、

被告弓谷照彦(以下被告弓谷という)は平成17年当時被告学会の男子部長の立場にあり、

被告森井昌義(以下被告森井という)は平成17年当時被告学会の関西青年部長の立場にあり、

被告長谷川重夫(以下被告長谷川という)は平成17年当時被告学会の副会長の立場にあり、

被告西口良三(以下被告西口という)は平成17年当時被告学会の副会長・総関西長の立場にあり、

被告藤原武(以下被告藤原という)は平成17年当時被告学会の副会長・関西長の立場にあったものである。

第3事実経過

1、原告は、平成5年から6年にかけて、月刊誌「文藝春秋」に手記を連載したが、その中に「学会と公明党政教一致といわれても仕方がない部分があった」との記述があったことから、これについて、被告学会から非難され、原告として不注意な記述であったと釈明するとともに、その手記を単行本化した際にはその部分を訂正した。

2,その後は、原告と被告学会との関係は平穏に推移し、原告は被告学会の会員として、また公明党のOBとして,選挙支援などの活動を行っていた。

 そうしたところ、平成17年4月ころから、被告学会は、突然前記の手記の問題を取り上げて、原告を激しく攻撃するようになった。

 すなわち、同年4月20日に、被告西口と被告藤原は、被告学会施設である戸田国際会館に原告を呼び出して「学会青年部が怒っている「原告を除名せよとの要求がでている」などと述べて、あらかじめ用意した文案を示して、原告に対して、前記「文藝春秋」掲載の記事について、謝罪文を書くよう求めた。

 原告としては、問題の手記の掲載は10年以上も前のことであり、それについての前記のような経過からして、既に問題は終了していたものと考え、その要求には納得がいかなかった。しかし、被告学会との長年の関係のことを考慮して、その要求に従うこととし、被告西口らが用意した文案に従って謝罪文を作成し、翌21日に交付した。

3,その頃、原告は、業務で妻とともに海外への出張を予定していたところ、同月25日に被告学会の秋谷会長から電話があり、「この連休中にカサブランカへ行くということだが、都議選前だからやめて欲しい」と言われた。

 被告学会が、このような情報を入手していたこと自体、原告の行動を監視していることを示すものであった。

 原告は、当時、学会や公明党の公的地位には就いておらず、このような形で旅行の中止を求められること自体が異常であり、原告の行動への不当な介入であった。

 原告が、「業務上必要な出張であり、中止はできない」と答えたところ、秋谷会長は、「それなら旅行の日程表を提出するように」と要求したので、原告として、誠に納得のいかない気持ちではあったが、それに応じて、旅行の日程表を被告学会に提出した。

4、第2項で述べた、原告作成の謝罪については、同年4月28日付の被告学会発行の「聖教新聞」で大きく報道された。そこでは、大きな活字で「公明党元委員長の矢野氏が謝罪」「”私の間違いでした”」「”当時は心理的におかしかった”」などという見出しがつけられ、記事中では、原告の記述により被告学会がいかに大きな被害を受けたかが強調されていた。

5,原告は、同年4月28日から、予定通りの海外出張に出かけたが、同月30日に、被告長谷川から、当時オーストラリアのブリスベーンに居住していた原告の長男を通じる形で数回にわたり原告に連絡があり、被告長谷川に連絡することを求められた。

 原告がこれに応じて、出張先から被告長谷川にその都度連絡を入れたところ、被告長谷川は、原告に対して、「聖教新聞」で原告への批判記事が掲載されており,早期に帰国することと、被告学会青年部が怒っているので青年部首脳と面談することを求めた。原告としては、納得のいかない気持ちであったが、これを承知した。

6、同年5月9日号の「聖教新聞」は、原告の前記謝罪についての記事をあらためて掲載し、その中で、原告が海外旅行に出かけたことを激しく非難し、被告森井の発言として、「我々は『口先だけ』なら絶対に許さない。本当に詫びる気持ちがあるなら、行動と結果で示してもらいたい、と重ねて言っておく」と記載し、原告への追及の姿勢を示した。

7、同年5月14目夜6時過ぎにに、原告が妻とともに帰国したところ、成田国際空港に被告学会に所属すると思われる若い男性10人くらいが待ち受けていて、原告らにカメラのフラッシュを浴びせ、さらに電車の乗り場までついてきた。

 原告は、前記約束に従い、帰国後自宅に戻ることもなく、そのまま、戸田国際会館に出向いて、被告学会青年部との「面談」に応じた。その面談の直前に,被告長谷川は,原告に対して,「青年部は激しい発言をするが反論しないように」と警告をした。

 その「面談」には、被告学会から、被告杉山、被告弓谷、被告谷川、被告森井、らが、原告を取り囲み、付箋をつけた「文藝春秋」の記事を前に置いて、原告をこもごもつるし上げのように非難追及した。

 被告森井は、2回にわたり原告に対して「土下座しろ」と迫り、被告谷川は「人命に関わるかもしれない」「息子さんは外国で立派な活動をしている。あなたは息子がどうなってもいいのか」という趣旨のことを言って原告を脅迫した。

 また、被告弓谷らは、原告に対して、「政治評論家をやめるべきだ」「元委員長が政治評論家をするのは許せない」などと言って、評論活動をやめるように迫り,他の者も血相を変えて威嚇した。さらに、被告杉山は、「文春の件を謝る。評論家をやめる。今後は書かない。恩返しをする」といった趣旨の文書をあらかじめ用意していて、これを原告に突きつけて、署名を要求した。

 原告は、これらの脅迫に屈して、被告らが用意した文書に署名するとともに、政治評論家としての活動をやめることを約束した。

8,同年5月15日に、元公明党議員3名が、突然原告宅に来訪し、前目の青年部との「面談」に基づく評論活動中止について言及した上、原告を威嚇,強迫して、原告から手帳を渡すとの約束を取り付けた。
 さらに、3名はいったん原告宅を退出後に、公明党本部に戻って幹部の藤井、大久保らから指示を受けて、深夜であるにもかかわらず、原告宅に再度来訪し、手帳などの個人的資料のうち、その時点で原告の手元にあったものすべてを提出させて持ち去った。

9,被告学会は、5月14日の青年部の追及の「成果」を同年5月18日付「聖教新聞」に報じた。そこでは、「矢野公明党元委員長が重ねて謝罪」という大見出しがつけられ、記事の最後は「問題は『これから』だ。彼が大恩ある支持者のために、どうやって『行動で示すか』だ。」との発言で締めくくられ、原告に対して今後重ねて様々の要求を行っていくことが示されていた。

10,原告は、「面談」時に約束させられたことに基づき、同年5月18日に日刊ゲンダイに電話をして、同紙への連載辞退を申し述べた。

 また、「面談」時に約束させられたことに基づき、その後は、「報道ステーション」「ニュース23」その他多数のテレビ番組における出演要請あるいはその他の執筆依頼をすべて辞退するなどして,政治評論家としての活動一切を中止した。

11,同年5月30日に、元公明党議員3名は再々度原告宅に来訪し、原告に手帳などの個人的資料の残りすべてを提出させてこれを持ち去った。また、この3名は、その際に、原告宅を隅々まで調べ回って、個人的資料が残されていないかを徹底的に調査した。

 その際,3名は不動産の取得・処分に関する資料や絵画・骨董品,銀行関係書書類などを点検し,その上で,原告に対して被告学会への寄付を求めた。

12,同年6月15日に、被告西口、被告長谷川、被告藤原は、戸田国際会館で,原告と「面談」して,こもごも「青年部の怒りはやむを得ない」「庶民の心に立ち戻らなければ地獄に落ちる」「家も売って」「2億だとか3億だとかそういうものを(寄付しろ)」などと述べて、原告に対して,資産のほとんどを被告学会に寄付しろとの理不尽な要求を行った。

13,同年8月3目付の被告学会の「創価新報」は、原告と被告学会青年部との「面談」を詳しく報じ、そこでは「手記を書いた矢野元委員長こそ、一連の学会攻撃の張本人であり、元凶であると断じるほかはない」として、原告を非難し、「面談」についても、原告が青年部の主張をすべて受けれたとして記載している。その中には、「評論家活動をやめます」「少なくとも週刊雑誌等の取材は断ります」「これは評論家決別宣言と同じです」「もうテレビにも出ない」と述べたとの記載も含まれていた。

14,被告学会は,同年8月19日,8月31日,9月12日,11月7日,11月14日,11月21日,11月28日などの「聖教新聞」に,原告を誹謗中傷する記事を繰り返し掲載した。

15,平成18年5月頃から、何者かが、原告宅近くに監視カメラを常設して、原告宅の監視を続け、原告、原告の妻、原告の秘書などが外出する際には数台の車両プラス数名の人員を用いて執拗に尾行を行うなどの威迫行為を継続してきている。尾行者ば、原告らが地下鉄や鉄道で移動する際にもその背後につきまとい、原告らは身体の危険を感じることがしばしばである。

 原告らは、この尾行、監視されることの苦痛、危険に耐えかねて、氏名不詳者を被疑者として、警視庁牛込警察署に被害届、保護願いを提出し、警察によるパトロール強化を求めるにまで至った。

 原告としては,その時期,態様などから,この尾行,監視が被告学会によるものではないかと考えている。

第4違法性並びに責任

1,はじめに

 第3で述べた一連の行為が、原告の基本的人権およびプライバシーを違法に侵害するものであることは明らかである。このうち、手帳の持ち去りとそれに伴う家探しについては、現在東京高等裁判所平成20年(ネ)第650号事件として、東京高等裁判所で審理中である。

 すなわち、訴外(株)講談社発行の週刊誌「週刊現代Jが、この手帳の持ち去りと家探しについて報じたところ、3名の元公明党議員は、(株)講談社並びに(ニュースソースと目された)原告を被告として、名誉毀損を理由とする損害賠償等請求で提訴したのである。そこで、原告において、逆に、その3名に対して、手帳の返還と手帳持ち去りについての損害賠償請求を行ったのである。東京地裁では、残念ながら、原告の請求が認容されなかったので、原告は控訴をして、現在東京高等裁判所第17民事部での審理を受けているものである。

 よって、本訴では、一連の違法行為の内、手帳の持ち去り及び家探しを除いたものについて、損害賠償請求をするものである。

2,言論活動の妨害

 平成17年5月14日の、被告杉山、同谷川、同弓谷、同森井らの行為は,原告を脅迫して、不当に原告の政治評論家としての活動を中止させるに至ったものであり、これが、憲法で保障された表現の自由並びに職業選択の自由を侵す違法な行為であることは明らかである。

 したがって、行為者であるこれら4名の被告に損害賠償責任があることも当然である。

3,寄付要求

 平成17年6月15日の、被告長谷川、同西口、同藤原の行為は、原告を脅迫して、預金通帳の開示および自宅を売却して2億円、3億円という莫大な金額の寄付をすることを強要したものであり、これが違法な行為であることも明らかである。

 したがって、行為者であるこれら3名の被告に損害賠償責任があることも当然である。

4,機関誌における誹謗中傷

 被告学会は,被告学会の機関誌「聖教新聞」で,原告の名誉感情を著しく傷つける誹謗中傷記事を継続して掲載したものであり,かかる侮辱行為が違法であることは多言を要しない。

5、被告学会の責任

(1)まず、言論活動の妨害が被告学会の幹部により、被告学会の行為として行われたことは明らかである。前述の「聖教新聞」「創価新報」などが、言論妨害者の行為を賞賛し、原告を非難していることもこれを強く裏付けるものである。

 さらに、3名の元公明党議員が、被告学会及び公明党幹部の指示を受けて、原告の手元にあった手帳などの資料を持ち去ったことも、この言論活動封じ込めをいっそう確実にするためのものであったと考えるべきである。

 以上の通りであるから、被告学会自体が、原告の言論活動を妨害したものとして評価されるべきであり、民法709条により、被告学会は損害賠償責任を負う。

(2)次に、寄付要求は、その寄付先が被告学会であったことからして、被告長谷川らの行為は同人らの個人的発意による個人的行為ではなく、被告学会としての組織的意思に基づく行為と見なすべきである。よって、民法709条により、被告学会は損害賠償責任を負う。

 仮に、しからずとしても、被告長谷川、被告西口、被告藤原らは、被告学会における職務の一環としてこの寄付要求行為を行ったのであるから、被告学会は民法715条により、原告に対する損害賠償責任を負う。

(3)最後に、機関誌における侮辱行為の継続であるが,これは被告学会が被告学会の行為として行ったものであり,民法709条により、被告学会は損害賠償責任を負う。

第5損害

本件の言論活動妨害、手帳の持ち去り,不当な寄付要求、機関誌による継続的な誹謗中傷などは、同じ時期に、原告に対して行われた一連の行為であり、原告の被った損害も、それらの相乗効果によるものであるので、個別の行為ごとに損害を積算するというのは適当ではない。

 原告は、これらの行為により、政治評論家としての活動を中止させられ、また、精神的にも、強い不安、不快感を抱いての目常生活を余儀なくさせられて、甚大な苦痛塗感じている。

 この無形損害ないし精神的損害を法的に評価するならば、慰謝料として金5000万円を下ることはない。

 さらに、原告としては、事柄の性質上、弁護士に依頼して本訴請求のやむなきに至ったのであり、それに要する費用の内、少なくとも500万円は本件違法行為と相当因果関係があるものと言える。

 被告らは、共謀して、本件の一連の違法行為を行ってきたのであるから、連帯して以上の損害を賠償する責任が存する。

第6結論
 以上の通りであるから、原告は、被告らに対して金5500万円の損害賠償並びに本訴状送達の翌日から完済まで民法所定の年5分の遅延利息の支払を求めて、本訴に及ぶ次第である。


証拠方法
 追って口頭弁論において提出する。

添付書類
1,資格証明書1通
2、訴訟委任状2通

当事者目録

原告矢野絢也
(送達場所)

法律事務所

原告訴訟代理人弁護士弘中惇一郎
同 弁護士弘中絵里
同 弁護士大木勇
同 弁護士品川潤
原告訴訟代理人弁護士川端和治
同 弁護士久保田康史
同 弁護士河津博史

〒160−8583東京都新宿区信濃町32番地

被告宗教法人創価学会
代表者代表役員正木正明
同所(勤務先)被告長谷川重夫
同所(勤務先)被告杉山保
同所(勤務先)被告弓谷照彦
同所(勤務先)被告谷川佳樹

〒543−0028大阪市天王寺区小橋町10−17関西池田記念会館内(勤務
先)
被告西口良三
同所(勤務先)被告藤原武
同所(勤務先)被告森井昌義



                                                                                                                                                              • -


創価学会・谷川氏 訴状全文