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「B層」とは?---マスコミ報道に流されやすい「比較的」IQの低い人たち 小泉郵政改革に熱狂し、民主党マニフェスト詐欺に騙され、流行のラーメン屋に並ぶ層。彼らの「選択」が国家を崩壊に導く!

B層」とは?---マスコミ報道に流されやすい「比較的」IQの低い人たち 小泉郵政改革に熱狂し、民主党マニフェスト詐欺に騙され、流行のラーメン屋に並ぶ層。彼らの「選択」が国家を崩壊に導く!



序章 こんな社会に誰がした?

野蛮な時代がやってきた

 なんだか世の中がデタラメになってしまったと感じます。

 三流のものがもてはやされ、おかしな考え方が幅を利かせています。

 本当に価値があるものは、ないがしろにされ、軽く見られ、「つまらないもの」「古くさいもの」「過去のもの」として扱われている。

 かつてドイツの古代史家バルトホルト・ゲオルク・ニーブール(一七七六〜一八三一年)は、「野蛮な時代が来る」と警告を発しました。

 その言葉に巨匠ゲーテは呼応します。

「その時代はすでに来た。私たちは野蛮な時代に暮らしている。野蛮であるということは、すぐれたものを認めないということだ」

 そしてなおも今は、野蛮な時代です。

 嘘に嘘を塗り重ねて、八方ふさがりになっている。

 どこかで道を間違えて、行き先もわからず右往左往している。

 希望が持てない。

 街を歩けば居酒屋チェーンやファストフードばかり。

 テレビをつけても面白くない。

 書店に行けば、くだらない本が山積み。

 聴くに堪えないJポップ。


 大手商社がつくった表面上シックだけど安っぽいグルメアーケード。

 政治家にも期待することはできません。

 二〇一一年三月一一日、午前の参院決算委員会で、首相の菅直人は自身の資金管理団体草志会」が在日韓国人(パチンコ店を経営する会社の代表取締役)から違法献金を受け取っていたことを認めます。そのわずか五日前には、外相の前原誠司在日韓国人からの違法献金が発覚したことにより辞任していた。将棋で言えば、菅政権はほとんど詰んでいたわけです。

 ところが同日午後二時四六分、東北地方太平洋沖でわが国観測史上最大の地震が発生。さらに最大波高一〇メートル以上、最大遡上高三八・九メートルの大津波が発生し、岩手県宮城県福島県の太平洋沿岸部を中心に壊滅的な被害をもたらします。

 死者・行方不明者は約二万一〇〇〇人。

 この津波により、福島第一原子力発電所の非常用電力供給系統が故障し、大量の放射性物質の拡散を伴う原子力事故が発生します。

 浮かれ立ったのは、退陣包囲網を敷かれていた菅直人です。

 その後、菅は小躍りしながら、行く先々で場当たり的なパフォーマンスを繰り返し、結果として未曾有の人災を招くことになります。

 地震翌日の朝六時には、ヘリコプターに乗り込んで首相官邸から福島に出発。海岸部を上空から視察し、福島第一原子力発電所東京電力社員から説明を受けました。

 非常時に国のトップがふらふら動くのは論外ですが、これにより現場が混乱します。菅の相手をするのに時間をとられて、原子炉格納容器内の圧力を弁から逃がす「ベント作業」が大幅に遅れた可能性が高い。

 菅は、この視察の出発前に「原子力について少し勉強したい」と述べ、東京に戻ると「あらためて津波の被害が大きいと実感した」と小学生並みの感想を漏らしました。

 午後に首相官邸で行われた与野党党首会談では「最悪でも放射能が漏れることはない」と断言。その会談中に一号機が爆発し放射能が漏れますが、野党側に真実を伝えることはありませんでした。

 一刻も早く国民に避難を呼びかけなければならない非常時に、菅は何をしていたのか?

 夕方に予定されていた記者会見の内容が突如変更になったためパニックになっていたそうです。一号機の爆発後、菅は東京電力の技術者を官邸に呼びつけ、「これから記者会見なのに、これじゃあ説明できないじゃないか!」と怒鳴り散らします。

 菅が気を取り直して記者会見を始めたのは、爆発から五時間後の午後八時三〇分でした。



 菅は「自分はものすごく原子力に詳しい」と自負していた。こうした勘違いが、震災の被害をさらに大きくしたわけです。


 ゲーテは言います。

「活動的な馬鹿より恐ろしいものはない」

 小泉構造改革内閣と民主党政権がやってきたことは「野蛮な時代」への回帰です。

 でも、怒っていても嘆いていても仕方がない。なぜこのような世の中になってしまったのか、その理由を考えて、なんらかの対応をしなければならない段階まで来てしまっている。

 ヒントになるのはB層の動向です。彼らの立ち居振る舞いを観察することで、その背後にある「大きな嘘」の存在が見えてくると思います。

「大きな嘘」とは何か?

 それはわれわれの社会が信仰している理念、イデオロギーです。序章では、B層社会の概略について述べていきます。

B層とは何か?

 まずは、「はじめに」で軽く触れた「郵政民営化を進めるための企画書」に目を通していきましょう。

 企画書の正式名称は「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」です。最初のページには、「2004年12月15日」「有限会社スリード」「株式会社オフィスサンサーラ」と作成日と作成した会社名が記されています。

 次のページは、郵政民営化に対する国民意識の分析です。

 郵政民営化に関しての必要性認識は確立しつつある。但し、プライオリティ認識は低い。

 また、その民営化に対しての温度は、その社会的立場、ターゲット・クラスターにより様々である。

 カタカナ英語でごちゃごちゃ書いてありますが、簡単に言えば「郵政民営化構造改革に対する国民的合意はできていない」ということでしょう。

 さらに、グラフが示されます。

 民営化を含む、構造改革に対しての意識/経済に関してのリテラシー度でターゲットをポジショニングすると、下図(著者註・前ページの図)のようになる。


 グラフを見ればわかるように、縦軸がIQ(知能指数)の程度を表し、横軸が構造改革に対する姿勢を示しています。

 このグラフ、および説明をまとめると次のようになります。

 A層は構造改革に肯定的でかつIQが高い層になります。

◎財界勝ち組企業

◎大学教授

◎マスメディア(TV)

◎都市部ホワイトカラー

 説明として、「エコノミストをはじめとして、基本的に民営化の必要性は感じているが、これまで、特に道路公団民営化の結末からの類推上、結果について悲観的な観測を持っており、それが現状の批判的立場を形成している」とあります。

 B層構造改革に肯定的でかつIQが低い層になります。

小泉内閣支持基盤

◎主婦層&子供を中心

◎シルバー層

◎具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを支持する層

◎内閣閣僚を支持する層

 説明として「最も重要な点は、郵政の現状サービスへの満足度が極めて高いこと」「民営化の大儀と構造改革上の重要性認識レベルを高めることが必要要件」とあります。

 C層(構造改革に否定的でかつIQの高い層)の説明としては、ごく簡単に「構造改革抵抗守旧派」と、D層に至っては「既に(失業等の痛みにより)構造改革に恐怖を覚えている層」とだけ書かれています。

 この企画書が、主にA層とB層をターゲットにしていることが、ここから読み取れます。

狙い撃ちにされたB層

 企画書には大きな文字で「B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーションが必要と考える」と書かれています。

 B層の特徴はIQが低いことです。構造改革の失敗例もすぐに忘れてしまう。そこで、マイナスの成果を思い出させないように工夫することが重要になります。

 つまり小泉構造改革を実現するには、B層に狙いを絞り、彼らを「学習」させるための「宣伝戦略」が必要であると。その方法は以下の三点になります。

1.これまでの構造改革の成果をしっかりと伝えること。
*構造改革のうち、ネガティブに捉えられているそれ、との類推を極力避けるとともに、可能な限り、それを想起させないこと。

2.旧来型話法ではなく、可能な限り『客観的第三者』発話を利用、それを味方化した発信に。
有識者や生活者代表との対談・対話の中で理解と共感を醸成する」

「生活者にとって身近なメッセージの開発(あ、わかった・・・なるほど、そーゆーことか)」

3.ターゲットの理解促進に即した、新しい媒体・ビークルを検討する。

 また、B層は自分の頭で考えずに、興味のある文化人、タレント、知識人の発言をそのまま自分の意見として流用します。だから、政治家は大上段から理屈を振りかざすのではなく、「第三者の発言」を利用しながら、B層を「教育」する必要がある。

 こうした手法は新聞社もよく使います。

 たとえば、社説が載ってしばらくすると、ほぼ同じ内容の投書が読者欄に掲載されます。第三者である読者に代弁させることで、社論の補強作業を行うわけです。

 あるいは第三者を捏造するテクニックもあります。

 記事の最後に「今後波紋を呼びそうだ」「発言が問題視される可能性がある」などと付け加える。波紋を呼び起こしたかったり、問題視したいのは原稿を書いた記者ですが、こうして仮想の第三者を利用する形で煽れば、B層脊髄反射的に激高してくれます。


 こうしてB層は、購読している新聞のオピニオンを自らのものにします。

 説明の3.は、B層のIQに合わせて、臨機応変にメディアを選ぶということですね。

郵政民営化ってそういうことだったのか!

 私が注目したいのは次の部分です。
*前述のターゲットB層とは異なるが、B層に強い影響を与える、A層に対してのラーニング手段として、Webを活用する方法を提案したい。

 B層構造改革がどういう性質のものであるかを知らないし、知ろうともしません。ただ、「改革=新しい=なんだかよさそう」という程度のイメージしか持っていない。このB層に決定的な影響を与えるのはA層(財界勝ち組企業・大学教授・マスメディア)です。だから、A層を「学習」させることが重要になります。

 つまりA層を利用することで、B層の「学習作業」が効率的になる。

 企画書ではインターネットを活用した各種セミナーの導入が提案されています。

 たしかにこの分析は的を射ています。

 権威・マスメディアを根拠もなく信じるのが、B層の特徴だからです。

 マスメディア対策として一番手っ取り早いのは買収でしょう。多くの政党は日常的にジャーナリストや文化人の買収を行っています。実際、元官房長官野中広務は、官房機密費を使って買収工作を行っていたことを政界引退後に暴露しました。

 また、党の講演会や政治家個人の勉強会に招いて、相場の数倍のギャラを渡すケースもあります。たとえば小沢一郎は、改革国民会議小沢一郎政経研究会といった関連団体経由でジャーナリストにカネを配っていました。公明党共産党のように、党の媒体で原稿を書かせる方法もあります。

 次のページには「生活者の理解と共感を加速するために」とあります。

竹中平蔵氏と佐藤雅彦氏による対談「経済ってそういうことだったのか会議」(日本経済新聞社刊)の発刊は二〇〇〇年四月。小泉構造改革内閣誕生の一年前である。いわば、この本により、旧来とかく理解しがたい経済問題が、はじめて一般生活者によって理解可能な次元を切り拓かれ、高い支持率による小泉政権発足の原動力となった、とも考えられる。
そこで、以下の戦略が提案されます。

1.公人としての竹中大臣発話に対して、対話者である識者が、生活者レベルでの理解可能な直喩と暗喩を駆使して、理解&納得可能なカタチに翻訳する。

2.公人としての立場から、前述の書籍で築いたイメージ資産を、国家政府のための貢献として献上する、というスタンスを形成する。

3.対話者は、学識経験者・識者にとらわれず、広く世の中、ターゲットから信頼を勝ち得ている著名人をセレクトしていく。*彼ら自身がTV番組や連載記事などで発話空間を有していて、民営化の理解、合意が波状的に拡がるように設計する。


 まとめると次のようになります。

1.竹中平蔵の意見を、バカでもわかるように言い換える。

2.竹中平蔵の意見を、国民(B層)にありがたがらせる方策をとる。

3.竹中平蔵の対話者は、B層に支持されていればタレントでもOK。

 この後は主に統計資料です。

日本の将来を決めるB層の動向

 なお、「郵政民営化を進めるための企画書」の存在は、二〇〇五年六月二九日、「郵政民営化に関する特別委員会」で、共産党佐々木憲昭議員が竹中平蔵特命担当大臣(経済財政政策担当、金融担当、郵政民営化担当)に問いただす形で明らかになりました。

 以下、議事録より抜粋します。

○佐々木(憲)委員 B層とは何か。主婦層、子供、シルバー層を中心とした階層。このB層にターゲットを絞って郵政民営化の必要性を浸透させることが二月に行われた広報戦略の眼目だった、そういうことですね。

○林政府参考人 お答えいたします。

 企画案の表現につきましては一部不適切な部分があるかもしれませんが、構造改革や経済に関する理解度には国民各層の間に差があるので、国民から信頼をかち得ている著名人との対談による、お役所言葉ではなく、わかりやすい言葉で広報する必要がある、そういう提案と受けとめてございます。

(中略)

○佐々木(憲)委員 要するに、小泉内閣を支持しているが、IQが低く、インターネットを使わず、郵便局に満足している、そういう階層にターゲットを絞って徹底的に民営化の必要を浸透させよう、上から教育してやろうという考えなんです。

 竹中大臣に聞きます。これは余りにも国民を愚弄した戦略ではありませんか。そう思いませんか。

○竹中国務大臣 以前に御説明をさせていただきましたが、今御指摘の書類は、これは業者がつくったものと思われますが、これは政府の書類ではございません。業者がつくったものと思われます。

(中略)

 民間の企業の企画書でございますから、私はコメントをする立場にはございません。

 竹中平蔵はこう言って逃げ切りましたが、二〇〇五年当時の報道を振り返れば、この「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」に従って政局が動いていたことは明らかです。実際、竹中平蔵テリー伊藤による政府広報郵政民営化ってそうだったんだ通信』が新聞折り込みチラシとして全国に撒かれている。


 ただし私は、佐々木議員のように「国民を愚弄している」などと批判したいわけではありません。

 逆です。

 この企画書は、わが国の将来がB層の動向にかかっていることを明確に示している点で非常に優れています。そしてグラフの縦軸(IQ)と横軸(構造改革に対する姿勢)の設定は、広告会社の単なる思いつきなどではなく、一八世紀以降の社会構造を考えるうえで、非常に重要な意味を含んでいるということを指摘したいと思います。

 縦軸は説明するまでもありませんが、横軸の「構造改革に対する態度」は、「日本固有のシステムを国際標準に合わせることに対する是非」「グローバリズムに迎合することに対する是非」と捉えることもできます。

 さらに深い場所を見れば、横軸を「近代的諸価値を肯定するのか、保留するのか」と読み替えることもできる(前ページの図を参照)。

 B層は「改革」「変革」「革新」「革命」という言葉を好みます。ここに「大きな嘘」の秘密が隠されている。追って説明していきます。

安倍政権が短命に終わった理由


 B層とは、知的程度がそれほど高くなく、A層(財界勝ち組企業・大学教授・マスメディア)から投下されたメッセージをそのまま鵜呑みにしてしまう層です。企画書にあるように、「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」ですね。

 B層は自分の頭で考えるのではなく、A層から結論を与えられるのを待っている。逆にA層にとって、B層は最大の顧客なので、B層向けコンテンツを中心につくるようになります。

 その結果、A層とB層の間で増幅作用が発生し、巨大なB層エネルギーが誕生する。そしてこれが社会全体をのみ込んでしまった状態がわが国の現在です。

 増長したB層は、もはやA層の手に負えなくなり、社会の前面に出てくる。恥を知らないおばさん連中まで国会に乗り込んでくる。


 小泉純一郎は、このB層にターゲットを絞ることで、圧倒的な支持を得ました。

 ところが、続く安倍内閣は短命に終わります。退陣の直接的な理由は、安倍晋三の健康問題でしたが、相次ぐ閣僚の不祥事が大きな影響を与えたことは間違いありません。

 しかし一番の問題は、安倍晋三の視線がIQの高いA層とC層に向けられていたことでしょう。

 彼は「戦後レジームからの脱却」を唱え、具体的な法改正を進めていきました。現行憲法の不備を指摘し、安全保障の枠組みを大きく見直すべきだと主張した。

 しかし、B層の支持は得られませんでした。

 「戦後レジームからの脱却」と言ったとき、B層戦後民主主義幻想の崩壊を怖れたのではなく、「レジーム」の意味がわからなかったのです。

 小泉純一郎がシンプルな言葉をはっきりと打ち出したのに対し、安倍のムニャムニャした抽象的な言葉はB層には届きませんでした。

 続く、福田政権も年金未納問題などが重なり支持率の低迷に悩みます。

 福田康夫は辞任会見の席で「総理の会見は国民には他人事のように聞こえる」と記者から指摘されると「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたと違うんです」と答えました。たしかに福田のほうが情勢を把握する能力はありそうです。ただし、「自分自身を客観的に見ることのできない」B層が、その言葉をどう受け取るかまでは考えていなかった。

 案の定、B層は福田の言葉に過敏に反応しました。

 次の麻生太郎は、同じ轍を踏まないように注意していたフシがあります。B層にも気を配ろうとして、秋葉原のオタクに声をかけた。しかし、B層の圧倒的多数は「オタクはキモい」というマジョリティーに賛同するのです。

 麻生の漢字の読み間違いは、きわめてどうでもいい話です。しかし、B層社会においては、これがネックとなった。

 要するに、「漢字の読み間違い」という批判のポイントが、B層の感性にしっくりきたんですね。経済や外交の議論は難しいので口出しできないが、漢字の読み間違いなら、自信を持って批判できる。「圧倒的な正義はわれにあり」というわけです。

 麻生がホテルのバーに通っているという話も、B層に言わせれば「庶民感覚から外れている」ということになります。

 安倍、福田、麻生政権は、B層からそっぽを向かれました。この時期と自民党の弱体化は重なります。

小泉構造改革マニフェスト詐欺

 B層社会では、政治の低レベル化が進みます。政治家としての能力より、B層に受ける能力のほうが重要になってくるからです。それを如実に示したのが、二〇〇五年の郵政選挙でした。


二〇〇五年七月五日、郵政民営化関連法案が衆議院でわずか五票差で可決されますが、翌月八日、参議院で否決されます。自民党党議拘束をかけましたが、両院において、民営化に反対する議員が続出します。

 ミモレットを干乾びたチーズと勘違いした森喜朗元総理には、激怒した小泉を抑えることはできませんでした。小泉は「国民の信を問う」と衆議院を解散して記者会見を開きます。

 本日、衆議院を解散いたしました。それは、私が改革の本丸と位置づけてきました、郵政民営化法案が参議院で否決されました。言わば、国会は郵政民営化は必要ないという判断を下したわけであります。

(中略)

 言わば、今回の解散は郵政解散であります。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、これをはっきりと国民の皆様に問いたいと思います。

 これは議会主義の否定です。

 政治のプロ集団(程度の差はあるものの)である参議院の意向を無視し、「国民の皆様」の意見を重視したわけです。小泉は「自民党をぶっ壊す」と言いましたが、議会のルールをぶっ壊したのが実態です。

 この選挙では、徹底したB層対策が行われました。

 自民党コミュニケーション戦略チームは、民間PR会社や広告代理店を使って国民の意識調査やテレビメディアのモニタリングを詳細に行い、B層票を狙ったプロパガンダ戦略を練り上げます。

 さらに小泉純一郎郵政民営化に賛成していた人物を掻き集め、郵政民営化に反対した議員の選挙区に「刺客」として送り込みます。彼ら「小泉チルドレン」には大量の選挙資金が流し込まれ、発言から服装に至るまで党により一元管理されました。

 こうして小泉は、善悪二元論とマスメディアを使った世論操作により、B層から圧倒的な支持を得たわけです。

 選挙後に小泉は、反構造改革派の議員を除名したり、離党勧告を出したりと、徹底的に復讐を行います。

 こうして、野蛮な政治は二一世紀に復活し、「民意」に支えられる形で郵政民営化関連法案は成立しました。

 でも、構造改革の結果、人材派遣業が拡大したり、医療費の負担が増えたりと、B層はむしろひどい目に遭っている。B層は自分に得になることだけでなく、損することにも飛びつきます。「被災地復興のためには消費税増税が必要だ」などと説明されると、ついその気になり、にわか仕込みの増税論者になる。

 彼らにとっては「わかりやすくて」「耳触りがいい」ものが一番だからです。

 小沢一郎のような政治家が、こうした状況を見逃すはずがありません。というより、民間PR会社や広告代理店を使って露骨な世論操作を始めたのは小沢のほうが先です。詳細は第四章で述べますが、一九九三年に小沢が細川連立政権をつくったときには、完全にB層の存在が意識されています。


 小沢は小泉政治を「ポピュリズムだ」と批判しましたが、まさにそのポピュリズムを最大限に利用することで鳩山民主党政権をつくり上げました。B層向けのマニフェストをつくり、B層に向けてぶちあてたわけです。「マニフェストは実現不可能だ」と識者に批判されても、その言葉がB層に届かないことを小沢は見抜いていました。

 ここに小沢一郎の天才性がある。

 民主党マニフェストは基本的にはシンプルな詐欺ですが、B層は簡単に騙されます。ばら撒き政策の財源の根拠や、民主党が隠し持っているイデオロギーには、B層はまったく興味を示さないのです。

「財源などいくらでもある」

「公共事業の無駄遣いをなくせばいい」

埋蔵金を財源に充てろ」

「国会議員の給料を減らせばいい」

「公務員の数を削減しろ」

 こうしたB層的言説が、実際の政治にダイレクトに反映されるようになりました。

 民意を重視し、わかりやすい言葉で、生活者の目線で政治を行うことが「よいこと」とされるようになった。今やB層の力なくして、政治が成り立たなくなっています。

「喫茶店での話題から得た結論」

 わが国では現在急速にB層社会化が進んでいます。近代において発生した大衆社会が、その最終的な姿を見せつつある。

 こうした、大衆社会の行く末を危惧する声は、昔からありました。ヤーコプ・ブルクハルト(一八一八〜一八九七年)もオスヴァルト・シュペングラー(一八八〇〜一九三六年)もフリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(一八四四〜一九〇〇年)も、大衆社会化が引き起こす災厄について事細かに検証しています。

 大衆社会を分析する際に、経済的階層や前近代的な身分階層ではなく、人間の質の面から考えるべきだとの指摘も、すでに戦前からなされています。

 たとえば、スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセット(一八八三〜一九五五年)は、人間を以下の二つのタイプに分けます。

1.自分に多くを求め、進んで困難と義務を負わんとする人々。

2.自分に対してなんらの特別な要求を持たない人々。生きるということが自分の既存の姿の瞬間的連続以外のなにものでもなく、したがって自己完成への努力をしない人々。

 したがって、社会を大衆と優れた少数者に分けるのは、社会階級による分類ではなく、人間の種類による分類なのであり、上層階級と下層階級という階級的序列とは一致しえないのである。(『大衆の反逆』)

 そもそも近代革命により階級的序列が失われたから、大衆が発生したのです。

 大衆社会においては多くの人間は動物のようにモノを考えなくなっていく。こういう根無し草のような存在(浮標のような人々)=大衆が権力を握ることをオルテガは危惧します。

 
大衆社会では徹底的に「知」が攻撃されるからです。

 かくして、その本質そのものから特殊な能力が要求され、それが前提となっているはずの知的分野においてさえ、資格のない、資格の与えようのない、また本人の資質からいって当然無資格なえせ知識人がしだいに優勢になりつつあるのである。(同右)

 ここで語られていることは、まさに現在のわが国の状況にほかなりません。

 ありとあらゆるプロの領域、職人の領域に素人が参入するようになった。無責任な人々が大衆に媚びへつらい、社会のB層化を進めています。

 当時の大衆は、公の問題に関しては、政治家という少数者のほうが、そのありとあらゆる欠点や欠陥にもかかわらず、結局は自分たちよりいくらかはよく知っていると考えていたのである。ところが今日では、大衆は、彼らが喫茶店での話題から得た結論を実社会に強制し、それに法の力を与える権利を持っていると信じているのである。(同右)
オルテガの予言は的中しました。

 B層社会では、「喫茶店での話題から得た結論」が政治の原理となり、「お茶の間の正義」を政治家が代弁するようになります。かつては、A層は踊らせる側、B層は踊らされる側という明確な区分がありました。ところが現在では、その境が曖昧になりつつある。発達したB層が、社会の中心に居座るようになって以来、B層の世界観・歴史観がA層を侵食するようになっています。

 今では戦後認識さえ、B層を釣るためのエサになった。

 たとえば、小泉純一郎タカ派と見られがちだが、基本的な発想は戦後民主主義者です。

 小泉は、靖国神社に合祀されている「A級戦犯」に対して「戦争犯罪人である」と言い放ち、二〇〇五年に森岡正宏厚生労働大臣政務官東京裁判のやり方に疑問を呈すると、すかさず厳重注意をしています。

 要するに、小泉にとって靖国神社は「釣りのエサ」に過ぎず、どうでもいい存在なんですね。靖国参拝に政治的信念があるわけではない。事実、小泉は民間調査会社に世論調査をさせ、政権の支持率が上がることを確認してから参拝を決定しています。

 小泉は自作自演のタウンミーティングを全国各地で開催し、「やらせ質問」を行ったシンパ、関係者にカネを流し続けました。一流の芝居を見ていないから、三流の茶番に騙される。

 B層に足りないものは教養です。

教養は知識の集積ではない

 誰でも二〇歳になったら大人になります。

 しかし、法律上は大人でも、子供っぽい大人、子供っぽい老人が巷にあふれている。彼らはB層の住人です。気分は子供時代の延長のまま。それで非難されるどころか、むしろ「いつまでも子供の心を失わないこと」が尊重されるような世の中です。

 彼らは個人主義者であり「理想の大人像」は成立しないと嘯く。そう考えた世代が現在の日本をつくってきました。子供だらけの社会では大人の意見は軽視される傾向にあります。ゲーテも言うように、「女子供」の正義が横行します。

 だから、大人の中の大人、男の中の男であるゲーテの指摘は価値があるのです。



ゲーテは大教養人でした。そして彼の教養は「大人の教養」と呼べるようなものでした。

 わが国では近年しばらく教養ブームが続いています。

 教養を謳ったバラエティー番組やクイズ番組が激増し、学者が出演して「面白くてタメになる」学問を紹介しています。資格取得ブーム、脳ブーム、新書ブームも並行して発生しました。

 しかし、いくら知識を身につけても、教養人になれるわけではありません。

 ゲーテが言うように、教養は知識では伝わらないのです。

 世の中には、立派な経歴と豊富な知識を持つバカがたくさんいます。彼らは、どんなに知識を増やしても、せいぜい知識人にしかなれません。

 知識人と教養人の間には深い溝がある。

 かつてニーチェは民主主義が新しい形の奴隷制専制を生み出すことを予言しました。彼はプラトン(紀元前四二七〜紀元前三四七年)からイマヌエル・カント(一七二四〜一八〇四年)に至る西欧知識人に罵声を浴びせる一方で、教養人ゲーテをこよなく愛しました。ニーチェゲーテから受け継いだのは、知識ではなく教養です。

 それは、歴史と現実に向かう態度、周囲との間合い、つまらないものに対する軽蔑といったものでした。私はB層社会に対抗するキーワードは「教養」だと考えています。

 次章以降、ゲーテに学びながら、近代大衆社会B層の関係を追っていきます。

ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体 著者:適菜 収
(講談社刊) 序章13〜42ページより抜粋