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ロッキード事件揉み消しを米政府に依頼した中曽根氏

ロッキード事件揉み消しを米政府に依頼した中曽根氏
テーマ:政治

ロッキード事件発覚当時、自民党幹事長だった中曽根康弘氏がジェームズ・ホジソン駐日米大使に「この問題をもみ消してほしい」と依頼していたことが、12日の朝日新聞の報道でわかった。



その旨を記したホジソン大使の国務省あて公電の写しが米国立公文書館のフォード大統領図書館に保管されていた。2008年8月、秘密指定が解除されたのにともなって発掘された資料のようだ。



この報道が注目されるのは、ロッキード事件の真の主役は田中角栄ではなく、中曽根康弘ではないかという説が、いまだにくすぶっているからだ。



ロッキード事件が発覚したのは1976年2月4日。米・上院の「チャーチ委員会」公聴会で、ロッキード社のコーチャン副社長らの証言により、自社の旅客機や軍事用航空機の売り込み工作が明るみに出た。



全日空L-1011トライスターを、防衛庁に次期対潜哨戒機候補P-3Cオライオンを導入してもらうため、ロッキード社の秘密代理人児玉誉士夫国際興業社主、小佐野賢治らを通じて複数の日本政府高官に裏金を渡したという内容だった。



CIAのエージェントとして戦後日本政界で暗躍した児玉は工作資金として21億円をロッキード社から受け取っていた。小佐野に渡った資金を含めるとロッキード社が日本への売り込み工作として支出したのは30億円といわれる。



真っ先に疑われた政治家は中曽根幹事長だった。佐藤内閣で運輸大臣防衛庁長官を歴任していたこと。児玉との関係が取りざたされていたことなどが背景にあった。


盟友の渡邊恒雄は児玉と親しかったことが知られている。また児玉の秘書、太刀川恒夫はかつて中曽根の書生であった。


中曽根幹事長は、ロッキード事件発覚当日の76年2月5日(日本時間)午後、「今の段階ではノーコメント」と語っている。


この事件に対し三木武夫首相は積極的な解明方針を示し、2月18日、米政府に高官名を含む資料提供を要請することを決めた。



ところが、朝日の記事によると、中曽根氏はその夜、米大使館関係者と接触し「もし高官名リストが公表されると日本の政治は大混乱になる」と語ったという。ホジソン大使の公電には「MOMIKESU」と、中曽根氏の使った言葉がそのまま記されていた。



「もみ消す」などという露骨な日本語を使っているところをみると、その米大使館関係者はよほど信頼できる相手だったのだろう。



その後、中曽根にとって旧知の仲のキッシンジャー国務長官がレビ司法長官に高官名の公表をしないように要請していることも、三木首相の意向とは別の次元で物事が進んでいたことをうかがわせる。



そして、米側が日本の検察に提供したのは、田中角栄、橋本登美三郎、佐藤孝行ら三人の政治家逮捕につながる資料だけだった。



これをめぐり、日本のジャーナリズムでは、アメリカの謀略説が飛び交った。



70年代の米外交をリードしたキッシンジャー氏や、ロックフェラーなど米財界中枢が、日中国交正常化や日本独自の石油ルート開拓を進めた田中角栄に反感を抱いていたことがその根拠とされる。



田中角栄は丸紅ルートで5億円をロッキード社からもらい、全日空にトライスター機を導入するよう働きかけたという検察のストーリーで逮捕、起訴されたが、裁判の過程で疑問点が次々と浮上し、ほんとうに5億円の授受があったのかどうか深い霧に包まれたまま亡くなった。



一方、中曽根は、児玉との関わりが噂されたものの、検察から捜査の手が彼に伸びることはなかった。



その結果、3500億円もの国民の税金が投入された45機のP-3Cオライオン購入をめぐる児玉ルート防衛疑惑は解明されないまま、現在に至っている。



今回の「もみ消し」文書に関する朝日新聞の取材に対し、中曽根事務所は「ノーコメント」と回答しているという。



東京地検特捜部はロッキード事件で勇名をはせたが、本筋の児玉・中曽根を追わず、前総理の断罪で幕を引いたとする批判もある。



また、田中角栄逮捕という栄光が、東京地検特捜部の今の凋落の元凶だと唱える識者もいる。大物政治家をお縄にかけることで世間の喝采を浴び、正義を貫き国を守るのは自分たちしかいないという思い上がりが高じていったと言えるかもしれない。



検察がストーリーを組み立て、それに沿って、保釈をほのめかしながら供述を強要してゆくやりかたは、ロッキード事件リクルート事件東京佐川急便事件、鈴木宗男佐藤優事件、佐藤栄佐久事件などにも共通している。



米国に好かれた中曽根は疑惑をくぐり抜け、5年間にわたる長期政権を維持し、大勲位の栄誉を与えられた。



一方、米国に嫌われた田中角栄は、まれに見る政治的実行力で首相の座にのぼりつめ、今太閤ともてはやされたにもかかわらず、メディアの金脈追及でわずか二年間の短期政権に終わり、さらにロッキード事件によって、その名は「巨悪」の象徴となった。



米国に対する中曽根の「もみ消し」要請が何を意図したものか、その真相は本人に聞くしか知りようがないが、朝日の記事にそのヒントを見つけた。



記事によれば、中曽根は「高官名が公表されると三木内閣の崩壊、選挙での自民党の完全な敗北、場合によっては日米安保の枠組みの破壊につながる恐れがある」と米側に指摘したという。



しかし現実に田中角栄、橋本登美三郎、佐藤孝行の名がのちに明らかになったものの、中曽根が指摘したような事態にはなっていない。それどころか、三木首相は世論の支持を取りつけるため、政敵の田中角栄スケープゴートにし、検察の捜査を積極的に後押ししたのである。



大勲位の晩節を汚すことになっては申し訳ないので、できる限り憶測は控えたいが、中曽根の「もみ消し」工作には自身の名前を出さないようにという意味が隠されていたのではないか、という疑念をどうしても拭い去ることはできない。



ロッキード事件の本質とは何だったのか。30億円はどこに流れたのか。いまだに解けない疑問に答えうる数少ない生存者の一人が、中曽根康弘、その人ではないだろうか。





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◆検察を支配する「悪魔」 田原総一朗田中森一(元特捜検事・弁護士)
p37〜 角栄をやり、中曾根をやらなかった理由---田原
 でも、ロッキード事件はできたじゃないですか。田中角栄は逮捕した。角栄は時の権力者ですよ。
 僕はかつて雑誌『諸君!』に「田中角栄 ロッキード事件無罪論」を連載した。ロッキード事件に関しては『日本の政治 田中角栄角栄以後』で振り返りましたが、今でも、ロッキード事件の裁判での田中角栄の無罪を信じている。
 そもそもロッキード事件アメリカから降って湧いたもので、今でもアメリカ謀略説が根強く囁かれている。
 僕は当時、“資源派財界人”と呼ばれていた中山素平(そへい)日本興業銀行相談役、松原宗一大同特殊鋼相談役、今里広記日本精工会長などから、「角栄アメリカにやられた」という言葉を何度も聞かされた。
 中曾根康弘元総理や、亡くなった渡辺美智雄後藤田正晴といった政治家からも、同様の見方を聞いた。
 角栄は1974年の石油危機を見て、資源自立の政策を進めようとする。これが、世界のエネルギーを牛耳っていたアメリカ政府とオイルメジャーの逆鱗に触れた。
 このアメリカ謀略説の真偽は別にしても、検察は当時の日米関係を考慮に入れて筋書きを立てている。結果、角栄は前総理であり、自民党の最大派閥を率いる権力者だったにもかかわらず検察に捕まった。
 かたや対照的なのは中曾根康弘元総理。三菱重工CB事件でも最も高額の割り当てがあったと噂されているし、リクルート事件でも多額の未公開株を譲り受けたとされた。
 彼は殖産住宅事件のときからずっと疑惑を取りざたされてきた。政界がらみの汚職事件の大半に名が挙がった、いわば疑獄事件の常連だ。しかし、中曽根元総理には結局、検察の手が及ばなかった。
 角栄は逮捕されて、中曽根は逮捕されない。角栄と中曾根のどこが違うのですか。冤罪の角栄をやれたのだから、中曾根だってやれるはずだ。
 それから亀井静香許永中との黒い噂があれほど囁かれたのに無傷に終わった。なぜ、亀井には検察の手が伸びない?
p39〜ロッキードほど簡単な事件はなかった---田中
 ロッキード事件に関わったわけではないので、詳しいことはわかりませんが、検察内部で先輩たちから聞くところによると、時の権力が全面的にバックアップしてくれたので、非常にやりやすかったそうです。
 主任検事だった吉永祐介あたりに言わせると、「あんな簡単でやりやすい事件はなかった」---。
 普通、大物政治家に絡む事件では、邪魔が入るものですが、それがないどころか、予算はふんだんにくれるわ、いろいろと便宜を図ってくれるわけです。三木武夫総理を筆頭に、政府が全面的に協力して、お膳立てしてくれた。
 ロッキード事件では超法規的な措置がいくつもある。
 アメリカに行って、贈賄側とされるロッキード社のコーチャン、クラッターから調書を取れた。相手はアメリカ人だから、法的な障害がたくさんある。裁判所だけでなく、外務省をはじめとする霞が関の官庁の協力が不可欠です。とりわけ、裁判所の助力がなくてはならない。
 政府が裁判所や霞ヶ関を動かし、最高裁が向うの調書を証拠価値、証拠能力があるとする主張を法律的に認めてくれたばかりが、コーチャン、クラッターが何を喋っても、日本としては罪に問わないという超法規的な措置まで講じてくれた。
 贈賄側はすべてカット。こんな例外措置は現在の法体制では考えられません。弁護人の立場から言えば、非常に疑問の多い裁判でもあった。「贈」が言っていることを検証しないで、前提とするわけだから。贈賄側が死んでいれば反対尋問はできないけれど、本来は、原則として仮に時効にかかろうが、贈賄側を一度、法廷に呼び出して供述が本当なのか検証するチャンスがある。
 ところが、ロッキードではなし。それで真実が出るのかどうか、疑わしい限りです。しかも、贈賄側は一切処罰されないと保証されて、喋っている。その証言が果たして正しいか。大いに疑問がある。
 それぐらい問題のある特別措置を当時の三木政権がやってくれるわけです。つまり、逮捕されたときの田中角栄は、既に権力の中枢にいなかったということなのでしょう。