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市場の支配構造(金貸し支配)




332076 インフレという名の収奪
 
北村浩司 ( 壮年 滋賀 広報 ) 17/12/24 PM07 【印刷用へ】

アベノミクス始め、「経済成長のためにはインフレは不可欠」とする「経済理論」が大流行中である。しかし成長はインフレを伴うという現代経済学の「常識」に反し、事実として、市場拡大期である近代ヨーロッパ(14世紀以降)には恒常的なインフレは見られず、基本的にデフレ基調と言って良い社会であった。農業生産力の拡大、交易の拡大、更には産業革命等の供給力の拡大が基本的に価格低下をもたらしたからである。大航海により略奪した銀が大量にヨーロッパに持ち込まれた16世紀や、産業革命の勃興期に賃金労働者が急増した18世紀の一時期を除いてインフレはむしろ例外的であった。
そして産業革命後の19世紀のイギリスでは対ナポレオン戦争(1818年)から1900年に掛けて物価は下がり続けている(リンク富士通総研レポート3p表)。また1774年から1912年までの成長期のアメリカにおいても平均物価上昇率はマイナス0.2%である。(「経済と金融の世界史」より)

その趨勢を転換させ、インフレ基調の社会を作り出したのはFRBの登場によるものである。事実FRBが登場する1913年以降、現在にいたるまでのアメリカの物価上昇率は年平均3.3%、とりわけ1971年以降は4〜5%の高いインフレ率である。
それまでの金融政策は金本位制に根ざしており、紙幣発行により金準備率が低下すると金利を引き上げ、金準備が潤沢になると金利を引き下げるという、市場追随型であったのに対し、FRBは明らかに慢性的なインフレを目標とした経済政策を続けた(と判断して間違いない)のがその理由である。
そしてこのインフレ政策の結果、上位0.1%の冨が下位90%の冨を上回る社会が形成される。

19世紀末には金融家たちは、物価上昇による金融資産の目減りを超えるメリットがインフレにはあることにほぼ気付いていた。まず通貨総量=信用創造を増やすことにより「無から有を生み出す」メリット。現物資産(土地等)の価値が上昇するメリット。そして資金を調達して運用する際に、インフレであれば物価上昇に応じて返済資金が実質目減りしていくこと、言葉を換えれば物価が上がれば預金者や資金預託者から「収奪」できるというメリットである。彼等はインフレを欲していた。

インフレを可能にするためには、市場が必要とする以上に紙幣を供給すればよい。
そして、それを可能にした第一の手段が銀行の「部分準備金」制度である。
金細工師発の彼等の商売の原型(リンク参照)は、基本的に返す金がいつでも手元にあることが建前である(全部準備金制)。しかしその後始めた信託業務は運用期間中は返済する必要がない。この二つの業務の境目は曖昧で、そうであるが故にイギリスでは預け金の所有権を巡って訴訟が相次いだが、19世紀の半ばには運用期間中の銀行の所有権を認める、銀行家にとっては歴史的な判決が降りた。以降は、運用期間終了後の「部分的な準備金」のみを行内に置けば良いことに法的にもお墨付きが付いた。これによってそれ以外は貸し出し=信用創造に回すことができる。
そして第二のかつ、より大がかりな手段が準備金(原資)と金のリンクの排除である。FRBは全部準備金時代の名残である、兌換金券、兌換銀券を排除し、かつ連邦債を準備金=通貨発行の原資とすることを政府に認めさせた。
金の制約から解放されることで、連邦債=政府の借金が増えるだけ通貨発行が可能になる。

そして、この金融家たちのインフレ願望を経済理論化したのが他ならぬケインズである。ケインズ理論有効需要創出のための公共事業を謳ったものだが、その実践的形態は連邦債の発行とそれを原資にしたFRBのドル発行である。ケインズは「信用創造」という概念を提唱し、「信用創造は理論的には無限である」と唱えた人物でもある。
ケインズ理論の本質は現在流行中のインフレ誘導理論だったのである。
そして、ケインスはインフレについて以下のように評価している。「この方法を用いれば密かに国民の財産を没収することができる。しかし、この窃盗行為を見抜ける者は百万人に1人もいないだろう。」と。


市場の支配構造(金貸し支配)

332906 金融資本や信用創造に対するマルクスの見解①
 

マルクスの著書「資本論」の要旨(資本主義の仕組み)は、次の通り。
生産手段(工場や機械)を独占する資本家と生産手段を持たない労働者が存在するのが資本主義である。労働者が生産する商品には労賃以上の「余剰価値」が生まれるが、それが搾取されている。結果として資本家の一人勝ちが続き、資本家階級と労働者階級の格差が広がる。

このように、マルクスが批判している資本家とは生産手段を独占する産業(工業)資本である。では、マルクスは金融資本や信用創造について、どのように見ていたのか?
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第139回『資本論』第5篇第25章「信用と架空資本」の学習会報告リンク

第25章「信用と架空資本」【要約】
単純な商品流通から、貨幣の支払手段の機能と、商品生産者や商品取引業者の間の債権者と債務者との関係が形成される。信用制度は、その自然発生的な基礎を単純な商品流通にもっており、資本主義的生産様式の発展とともに、信用関係は拡大され、一般化され、完成されていく。そこでは貨幣は支払手段として機能し、商品はただ支払約束、手形と引き換えに売られる。諸債権が相殺されるかぎりで、この手形は貨幣に代り、その満期日まではそれ自身再び支払手段として流通し、本来の商業貨幣となる。
【本来の信用貨幣である銀行券などの信用制度が作り出す流通上の諸用具は、貨幣流通にではなく、このような手形流通にもとづいているのである。】

前篇で、事業家の準備金の保管、貨幣収支の技術的操作などが貨幣取引業者の手にいかに集中されるかをみたが、信用制度はこうした貨幣取引業と結びついて発展した。この貨幣取引業との結びつきにおいて信用制度の他の側面である利子生み資本の管理が、貨幣取引業者の特殊な機能として発展し、貨幣の貸借が彼らの特殊な業務となる。
【この面から見た銀行業務は、貨幣資本の現実の貸し手と借り手の集中を表わし、貨幣取引業者は貨幣資本の一般的な管理者となる。】彼らは媒介者として、貸付可能な貨幣資本を集中し、貨幣の貸し手の代表者となり、また全商業世界のために借りることによって、借り手をも集中する。

銀行が扱う貸付可能な資本は、種々の仕方で銀行に流れ込む。各個の生産者や商人の準備金、貨幣資本家の預金を始めとする全ての階級の遊休貨幣、そして徐々にしか消費されない収入として。

貸付の形態には、手形の割引や種々の前貸(直接前貸、担保前貸、商品所有証書による前貸、預金に対する当座貸越等)がある。さらに、銀行業者手形や小切手、銀行券のような銀行業者が与える信用も貸付の形態である。【なかでも銀行券は、いつでも持参人に支払われうる銀行業者あての手形であり、商業流通から一般的流通に入り、また背後に国家信用を有し、多くは法定の支払手段とされ、重要な「本来の信用貨幣」である。銀行券は価値を持たない信用章標にすぎず、銀行業者が取り扱うのは信用そのものだということが明瞭になる。】

マルクスが架空資本として挙げているのは国債証券や株式などの有価証券のことであり、いわゆる信用創造ではない。
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市場の支配構造(金貸し支配)

332907 金融資本や信用創造に対するマルクスの見解②
 
冨田彰男 18/01/22 PM07 【印刷用へ】

マルクスは金融資本や信用創造について、どのように見ていたのか?
資本論』原文or草稿には、次のような記述がある。
信用創造論の再検討」小西一雄リンク
「信用と架空資本」(『資本論」第3部第25章)の草稿について(中)大谷禎之介リンク

●銀行券について
「銀行券は、銀行業者あての手形に他ならない」
「銀行券はただ流通する信用章標を表わしているだけで(中略)、銀行券はただ卸売業の鋳貨をなしているだけであって、銀行で最大の重要性を持つのは預金である」
「預金は貨幣(金・銀行券)でなされる。預金された貨幣は貸し出されて産業資本家、商業資本化などの手中にあり、預金は銀行の帳簿上の記録として残っているにすぎない。」

●銀行について
「銀行券を発行する主要銀行は、国立銀行と私立銀行との奇妙な混合物であるが、その背後に国家信用をもっていて、その銀行券は多かれ少なかれ法貨でもある」
「銀行制度は、死蔵されている貨幣準備を集めて貨幣市場に投ずることで、高利資本からその独占を奪い取り、また、信用貨幣の創造によって貴金属そのものの独占を制限する」
イングランド銀行がその金準備によって保証されていない銀行券を発行する。この無準備銀行券は単なる流通手段だけではなく、無準備銀行券が発行額は(架空とは云え)銀行の資本を追加する。この追加資本はイングランド銀行の追加利潤をあげる」

マルクス信用創造に近い概念として「信用資本の調達」という言葉を使っているが、それは、銀行が費用や資産を使わずして資本を調達すること(典型的には発券による貸し出し)を意味している(信用創造=金貸しによる紙幣の二重発行のことではない)
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上記から伺えることは、
【1】マルクス中央銀行(イングランド銀行)が預り金を超える紙幣を発行するによって利益を上げていることには触れているが、中央銀行があたかも国家機関であるかに語っており、民間銀行(金貸しの打出の小槌)であることを捨象している。
【2】また資本主義を批判しながら、市場拡大の原動力が信用創造という詐欺(預り証の二重発行or預り金の又貸し)であることも捨象している